企業分析ナレッジ

武田薬品工業 始まりののれん分け、膨張するのれん

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今回は、1781年大和国から大坂・道修町(どしょうまち)に出てきた長兵衛さんが薬種仲買商の「近江屋喜助」の下で奉公した後、のれん分けによって独立し、薬種商「近江屋」を開いたのが始まりの武田薬品工業株式会社を取り上げる。今回、日本企業で過去最大額となる6兆8000億円でアイルランドの製薬大手シャイアーの買収を決定した意味を探る。同社は、創業238年の老舗製薬会社である。6月11日発売の週刊AERA(2018年6月18日発行号)で超長寿企業の条件抽出を行い、創業350年超企業を取り上げたので合わせて読んで欲しい。

武田薬品工業 企業分析総覧

2009~2018年3月期までの連結財務諸表を分析した。(2018年は決算短信)

企業力総合評価は、177.56P→178.83P→178.81P→148.11P(2012年)→146.19P→147.26P→99.29P(2015年)→138.62P→118.51P(2017年)→137.00Pと推移している。悪化成り行き倍率(同じトレンドで悪化したらあと何年で破たん懸念60P以下に突入するか)は2012年3年、2016年1年、2017年3年と厳しくアラームを鳴らしている。

企業力悪化の理由

2012年の悪化は、スイスの製薬大手ナイコメッドを96億ユーロ(約1兆1000億円)で買収したことが原因で起こった。当時、米国での糖尿病治療薬の特許切れで連結売上の22%に当たる3062億円(2011年)の減収が見込まれたのが買収理由と言われる。それにしても、純資産約15億ユーロのナイコメッドを96億ユーロで購入すれば81億ユーロ(9281億円)はのれん(超過収益力を買ったと認識する為無形固定資産)等である。武田薬品工業は翌年2013年からのれんを償却しないIFRSを採用した。それ以降、日本基準のように毎期のれんの償却費が損益計算書に計上されない。2012年時点、無形固定資産が1兆5162億円(うち5822億円がのれん)、総資産に占める割合が42.4%となった。巨額のれんの計上を許すなど、ハゲタカに脇の甘い会社ですよとアピールしているように思うのは私だけであろうか。

2011年は、借入金はたった13億円であったが、2012年には借入金5428億円に膨らんだ。流動性・安全性の悪化はこれが原因である。買収により、武田薬品工業は2016年まで増収であったが、優良企業の面影はなくなってしまった。アメリカの薬の特許権は20年であり減収することは遥か前から分かっていたのではないか。なぜ拙速な買収を行わなければならなかったかが疑問である。

【のれん】現金100万円と借入金60万円しかない会社を90万円で買ったとする。なぜ正味40万円しか買い会社を50万円も高く買ったか。それはこの会社が将来50万円以上稼ぐと考えたからである。買った会社を引き継ぐ時50万円でのれんを買ったと認識する為のれんが計上される。

2015年の悪化は、糖尿病治療薬「アクトス」の米国での製造物責任訴訟で、和解金など総額27億ドル(3241億円)の引当金を計上したためである。1457億円の最終赤字になり営業効率は赤信号に大きく沈んだ。

2017年の悪化は、短期借入金3166億円の増加を含む5089億円の流動負債の増加が主な原因である。流動性・安全性という財務体質の悪化が止まらない。この時ものれんを急増させる大型買収をしている。

武田薬品工業の各種財務分析指標を示す。買収があれば連結決算され売上高は伸びる。しかし、総資産無形固定資産比率(総資産に占める無形固定資産割合)は急増し、買収の為に有利子負債を増やすので総資産有利子負債比率(総資産に占める有利子負債割合)も上がる。肝心の売上高経常利益率は買収前2011年の26%に戻らない。IFRSではのれんは償却されず、損益計算書に償却費が計上されることは無い為、一般の人はその存在に気付くことは少ない。超過収益力があるのであれば、売上高経常利益率は2012年以降も右肩上がりになる筈である。それぞれの期を日本基準で償却されたと試算すれば、2014年以降は経常損失に転落している。過去のM&Aをちゃんと総括したのであろうか。

まとめ

なんのためのM&Aなのでしょうか。武田薬品工業が悪循環から脱することを望むと共に、M&Aが真に企業成長の手法として活用されるように望んでいます。

SPLENDID21NEWS第151号【2018年6月15日発行】をA3用紙でご覧になりたい方は下記をクリックしてください。

sp21news151武田薬品工業

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山本純子
株式会社SPLENDID21 代表取締役。企業評価・経営者評価のスペシャリスト。多変量解析企業力総合評価「SPLENDID21」というシステムにより、通常の財務分析ではできなかった経営全体を「見える化」するシステムを提供。 近年では様々な企業が本手法を利用して莫大なデータより有用な情報を引き出し、実際の経営に役立てています。 代表者プロフィールはこちら
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